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楠の会だよりNo.269号(2024年11月)記事より

      
〇おくと見るほどぞはかなきともすれば風にみだるる萩のうは露 (紫上)
 間もなく果てるであろうわが命を、風にもてあそばれる前栽の萩の上露に例えている。

〇ややもせば消えをあらそふ露の世に後れ先立つほど経ずもがな (光源氏)
 と応じて光源氏は落涙を禁ずることができない。消えを争う露に等しいこの世を私たちだけは時を置かず一緒に死にたいと言う。その翌朝紫上は世を去った。
          (秋山虔著「源氏物語」より)


健康とは=からだ・こころ・なかまの3項目が良い状態であること
  ~メンタルヘルスの質の向上を目指して~

秋の終わりは心細さや名残惜しさや、何かと下向きの、しかししんみりと自分を振り返る心境にもなる季節です。
さて、先月号に石丸昌彦先生(精神科医)の最新の精神科医療について、NHKラジオテキスト「こころをよむ」を引用しながら、古くからある統合失調症からうつ病、ストレスによるストレス障害、それによって引き起こされる適応障害やPTSD、アルコール、ギャンブル、ゲームなどへの依存症等、今話題の新しい疾患にどう対処していくか、そしてWHO(世界保健機関)にもう一つスピリチュアルを加える提案があることについて、少し触れました。

〇WHOは既成の健康観になぜ<スピリチュアル>を加筆修正したいのか

WHOは第二次世界大戦後3つの健康観の定義①身体的(physical・からだ)、②精神的(mental・こころ)、③社会的(social・なかま)を制定しました。身体的と精神的はわかるとして、そこに社会的を入れたのは、貧困や差別、戦争があるところでただ医学的に健康を追及するのは虚しい。個人が健康であるためには、社会環境を整えなければならないとしたということです。次にスピリチュアルを追加しようとしたことを前回に述べました。戦後世界的に若者たちに未来が見えない不安感が広がっていることと関連します。「神は死んだ」と言う言葉が流行したように、特にキリスト教圏の世界では若者を中心に宗教離れが進み、かつて宗教に託されていた人生や社会の課題、例えば良心、道徳、死生観などと言った人生の重要な事柄が、宗教と言う古い桎梏から自由になった代りに、先進国でも無差別テロや、日本もオウム真理教事件など凶悪犯罪が起こった事と無関係ではないように思われます。(※からだ・こころ・なかまとは石丸先生訳のわかりやすい和語)

〇スピリチュアルとは

ご存じのように、第二次世界大戦のあと、特に日本は絆の濃いコミュニティがほぼ全滅し、人々がコミュニティの支えなしに孤独に生きてきました。それが適応障害の急増につながっていると石丸先生は言われます。精神的な支えを人はどうやってつくっていくのでしょうか。例えば命に関わる傷害、不死の病に直面した時、誰しも死について考えざるを得なくなります。「本当に自分は死ぬのだろうか」「どうこれから毎日過ごせるだろうか」など、健康な時には意識しなかったこれらの自問に悩まされるでしょう。ただその答えは医学や医療制度の中にはないと言われます。当事者は自らその答えを探すほかないのが現状です。もしそれが自分の身に降りかかってきた時、体の痛みは医師に訴えることができても精神の苦しみはどのようにしたらいいのでしょうか。
WHOが追加したいスピリチュアルとはこのことだと石丸先生は言われます。3人に一人はがんで死ぬと言う今日、しかもガンの告知は一般化している中で、スピリチュアルケアの需要は相当に大きいはずだと。スピリチュアルペインは心身の痛みとあいまって現れるものです。健康の定義の中にスピリチュアルを加えよ、というWHOの主張はここから来ていると先生は言われます。
この問題は不安を抱えた人たちにも言えることではないでしょうか。相談窓口や資料はたくさんありますが、最終的には自らが決めなくてはならないことです。しかしコミュニケーション環境が貧しく、もともと成長過程で必要な素養を与えられてこなかったとしたら、じっと動かず、耐え忍ぶしかないでしょう。ただもしWHOでこれが採用されたらどう翻訳するか、適当な言葉が見つからず関係者は困った。ただその精神が日本にないと言うことではなく、「こころ」と言う言葉がスピリチュアルを包含していると言われます。(以下「  」は石丸先生のテキストからの引用)

〇こころのケアのキーポイントは、人生に意味を見出し希望を持つこと

「医療機関は常にスピリチュアルペインに取り組む用意がなければなりません。健康の定義の中にスピリチュアルを加えよと言うWHOの主張に、改めて説得力を感じる所以です」と石丸先生は言われます。そしてこの苦しみの救いについて、先生はO・ヘンリーの「最後の一葉」を引用されます。若い女性が肺炎を患い、窓から見える蔦の最後の一枚が落ちる時、自分の人生は終わるのだと思い定めて、嵐の一夜を過ごしますが、嵐にも拘らず葉は落ちていなかった。それを見て、希望を取り戻すと言う短編小説です。実は嵐の夜階下に住む画家が壁に葉を書いたものだったのです。画家は無理がたたって死んでしまいます。「スピリチュアルペインとスピリチュアルケア、それは具体的に言えば、人生に意味を見出せるかどうか、未来に希望を持てるかどうか、ということです」と。

〇人の心と現実社会とは切っても切れない繋がりがある

私たちがこれまでも気になっていたこと、なぜひきこもりが戦後の日本に多発したのかと言うテーマを何度か会報でとりあげてきました。田中千穂子先生(心理臨床家)も同じような見解を示されていましたが、石丸先生も明確に、心理学から同じような見解を示されています。
「スピリチュアリティと並んで、改めて浮かび上がるもう一つの軸は、人のこころと現実の社会との切っても切れない繋がりです。例えば日本の社会全体の、歴史的なこころの病理と言ったこと。第二次世界大戦の惨憺たる敗戦は、日本人集団全体にとっての巨大な喪失体験でした。この喪失を乗り越えるために私たちが選択したのは、心理学で「躁的防衛」と呼ばれ「否認」と呼ばれる一連の防衛であり、その現実の表れが高度成長の時代でした。ただひたすら成長・拡大・前進を目指したその時代に否認し置き忘れてきた多くのものを、今取り戻す時が来ています」

〇統合失調症患者さんの恐れが現実化

このNHK講座の副題が、心の病で文化を読むとなっていますが、まさに今話題にされる精神の病は、インターネットやスマホの普及したことに大いに関係しています。精神疾患を深読みすることで今の日本の文化の在り方がわかるとはまさにそのとおりではないでしょうか。
「人のこころと社会のつながりについて、精神疾患と呼ばれる病気は実に多くのことを教えてくれます。統合失調症の患者さんは、常に監視され何処までも追跡されること、内密の情報を世界中に暴露されることをその妄想の中で恐れてきましたが、今ではその恐れはいたるところに設置された防犯カメラやGPS追尾、インターネットのハッキングとSNS上での公開などの形で日常の現実となりました。
最近統合失調症の軽症化が指摘されていることの背景にあるいはこうした現実の変化があるのかもしれません」

〇未来に向けて

最後に石丸昌彦先生が心を込めていわれることは、人は健康に向かおうとする強い力がある。患者さんが携えてくる健康なエネルギーに感動を受けた事例として、自殺未遂と義足と一人親のハンデイの中、感謝する力を以て立ち直った女性を紹介し、これはスピリチュアリティの大事さにも通じるようですが、感謝できる人は回復が早いとも付け加えておられます。そして何よりも私たちが注目することが、当事者活動が未来を拓くこと、無批判の語りあい・居場所の持つ力を強調し、これは新しいコミュニティの絆となるだろうと。
そして、「社会が一つの生命体のように連動するこの時代に、その共同体を共感によってスピリチュアルに整えることができるかどうか、私たちに与えられた大きな宿題です」と締めくくられています。
※詳細はNHKラジオテキスト「こころをよむ」石丸昌彦(精神科医)を参照下さい。   (記 吉村)


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今月は他にも素晴らしい投稿記事があります。ぜひ「楠の会だより」をご覧ください。
なお、当ホームページに「楠の会だより投稿」のサブページを設置しました。
こちらの方もご利用ください。
投稿の一部を掲載しています。→楠の会だより投稿    

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福岡「楠の会」支部会だより

数ある支部会だよりからいくつかの支部をWEB編集者独断で選んでいます。他の支部会の状況をご覧になりたい方は、「楠の会だより」をご利用ください。

★福岡の集い  10 月 1 2日( 土) 14 : 00~16 : 00 ( あ す み ん ) 参加者 11 名 (男性 4、女性 7 )

Sさんと語る集い
今回は、ひきこもり歴 約20年、現在53歳のSさんと支援者Tさんが、来てくださいました。Sさんには、いつもの例会に特別参加の形ではいってもらいお話していただきました。
〇 Sさんは、働いていた経験もおありとか、しかしいつか仕事を続けられなくなったということ。今は家を離れて一人暮らしをしているということでした。ひきこもるうちに糖尿病になっていたので、支援につながった時一番にしたことは本格的に病気を治すこと、歯医者にも行き、体の回復を心がけた、今は支援事業所に30分かけて歩いていくので、いい運動になっている。以前は外に出ることが嫌だったが、今ではそれはなくなった、ご飯も自分で炊いて、あとはコンビニやスーパーでまかなっている、などボチボチとお話ししていただきました。

〇 支援につながるきっかけは、お母さまが高齢になり、このままでは死ねないと言って、いろいろ相談に行ったが、何処からも年齢が高いので断られ、最後にTさんのところに行ったということ。若い人の支援が主体なのでどうかなと思ったが、お母さまの困窮状態に押され、何とかできるだろうと、Tさんの塾に通ってきて人と話をすること、体を治すことから取り掛かることにしたとTさんは付け加えられました。

〇 やっとここまで来て、これからも体の回復を図り、外へつながった今の状態にもっと慣れていきたいということでした。まだそれほど社会になじんでおられるようではありませんが、こうして親たちの集まりにお姿を見せてお話をしていただき、同席した親たちは我が子もいつかはこうして人前に出られるようになるといいなと思われたことでしょう。

〇 この後、お母さまとお姉さまから、彼が人前で話をすることができたのは信じられないが、本当にうれしいと、お礼のお言葉をいただきました。

〇 今日の集い参加者として、新しい方お二人が参加。B型作業所のTさんも参加され、訪問看護のことなどアドバイスを頂きました。新しい方には、親がご本人をどうにかする事はできないが、親の考え方の変化は子どもの変化につながることを信じて、続けてこのような語りの場に来て見聞を広げていただくことを期待しております。(F・Y)

★宗像の集い 10月 16(水) 13 : 30~16 : 00 (メイトム宗像) 参加者 6名 ( 女性 5 ,  男性 1 )

1 ビデオ視聴 「安心感の輪の中で アタッチメントと入舟寮のこどもたち」((N H K  Eテレ2024年9月17日放送)
児童養護施設・入舟寮では10年前、子どもの問題行動が増えたのをきっかけに、子どもたちの行動の裏にある思いを理解しようと職員全員であることを学びました。それは「アタッチメント」。「アタッチメント」は人が不安や恐怖を感じたときに誰かにくっつくことで安心しようとする本能的な欲求のこと。アタッチメントの関係を築くには二人の間に信頼関係が必要です。表面的な行動に注目するのではなく、その裏にある子どもの気持ちを読み取る事を職員達は研修しました。アタッチメントを大切にすることで子どもたちは変わっていきました。安心で繋がろうとする子どもたち、小学生も中学生も高校生も職員にくっついて離れないのです。そして入舟寮の問題行動もなくなりました。
2 みんなで話し合い
a: 娘が口も利かない・顔さえ会わさない状態が20年も続いています。これもアタッチメント形成が出来ていないことが原因かも知れません。入舟寮の職員さんは努力してアタッチメントが築けたようですので、私も努力を重ねたいと思いました。
b:娘がB型作業所に行くと言い出しました。親に迷惑を掛けたくないとの気持ちからだそうです。はじめて病院に行き受給者証の申請を出しているところです。
c;bさんの娘さんは最近積極的に動いておられるようですね。この間はアルバイトの面接を受けたとおっしゃっていましたね。
d;うちの娘は最近ぐっすり眠れないと悩んでいます。2~3時間で目が覚めるそうです。病院で薬はもらっていますが効果がないようです。1週間ほど入院して生活リズムを整えたら良くなるのではと思いますが、なかなか同意してくれません。  ( A男 )

★福岡東部の集い 10 月 19 日(土)13 : 30~16 : 00 (コミセンわじろ) 参加者6名( 女性4、男性 2 )

〇 午前中の雨模様が、遅まきながら秋の入り口に差し掛かったように感じられます。
少なめの集まりながら、新しいお父さんの出席により、会の役割を問われているような感じになりました。我が子に対し引きこもりではないかとの疑念を抱いた時、親はどうあるべきか。心の動揺を隠せず、ひきこもりへの対処を問われた時、会の皆さんがどのようないたわりの心で接し、そして何を語るべきかを見せて頂いた気がします。

〇 お話を聴きながら自らの経験と照らし合わせ、その時の心情を真剣に伝えられる方。わが子から、必死に頑張って稼いだお金で僅かばかりの親孝行を受け取った時の感動を心を震わせ、涙っぽい笑顔でお話しされたお母様。
私には東部の会の先輩方らしい思いやりにあふれた対応に見えました。新しいお父さんはどのような印象を持たれたでしょうか。
終わりが近づいた時は、各人が相手を作って対話に没頭していました。肩の力が抜け満ち足りたひとときの中、会の役割を少し答えられた気がしています。その余韻を残し乍ら散会となりました。 ( H.K )


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