■楠の会だより投稿文の紹介■


ひきこもり、親である私の歩み
               A男

ひきこもり当事者を家族に持つ私が、どのように福岡楠の会と繋がり、どのように変化していったのか、そして現状はどうなのかを話させていただきます。(10月14日福岡市精神保健福祉センター講演会・11月9日筑紫野市講演会発表)

〇単身赴任中に息子が‥‥
今から、10年以上も前になりますが、定年退職により、私は長い単身赴任の生活に終止符を打ち、家に帰ってきました。
帰ってくる1年ほど前から、男の子ども、子どもと言ってもその時30歳近かったのですが、子どもが働かず困っていると妻から聞かされていました。
この子どもは関東近郊で大学を卒業し、その場所で色々な仕事をしながら、数年間実家に帰らないで頑張っていました。
このころ、母親とこどもの電話連絡の中で、こどもが疲弊していると感じた母親が、家に帰っておいでということで、家に帰ってきました。
その姿はガリガリに痩せていました。
帰って来てから近くのスーパーでアルバイト店員して働いていましたが、間もなくそこを止め、大型量販店の就職試験を受けましたが駄目でした。
その後ずっと働かないというのです。
私が帰ればなんとかするよと妻に言っておりました。
そんなもんですから、帰ってきた私は何とかしなければと、こんな仕事、あんな仕事、こんな学校、あんな学校と色々勧めたのですが、「ありがとう」というなり自分の部屋に行ってしまうのです。
この時はズルで働かないのだと考えていたわけですが、そのやる気の無さに驚いて、何で働こうとしないのだろうと頭を抱えました。
扶養人数が増えると年金では生活が成り立たず蓄えの取り崩しが増えて何年もつか心配です。
書類をカバン一杯に詰め込んで重い荷物を持って出張した時、定年したら今度は軽いカバンで遊びにきたいなぁと思っていたのも今となっては夢だと思いました。
このまま一生働かなければ、彼の将来も、私の将来も見えないと、不安が一杯で眠れない夜もありました。
〇支援者を求めて
自分ではどうすることも出来ないので、色々な支援者を求めて回りました。
無料の相談会を訪ねました。無料相談の後、一回目の相談会に出席すると年百万円単位の費用が必要と言われました。
この先ずーっと働けるようになるのだったら、百万円、2百万円は全く惜しくないとも思いましたが、その方の対策の進め方にこれでいいのだろうか不安を抱き、結局第一回の面談1万円だけでやめました。
公立の相談機関に、こうすれば仕事するようになるという、いわば特効薬を与えてもらえることを期待し、出かけましたが、どこにも特効薬はありませんでした。
そんな中、インターネット情報で楠の会の存在を知り、会に電話をかけてみました。
親の会の場所と時間を教えてもらい、出席しました。
出席者はお母さんばかりでしたが、近ごろの家の中の動きや困ったこと等をそれぞれが率直に話しています。
我が家で起こっていることは、ひきこもりという現象なのだ。
我が家だけでなく、ここにいる多くの人たちも引きこもりに悩んでいるのだとわかりました。
このころ知っていたのは、ニートとかパラサイトシングルという言葉でした。
ひきこもりは思い浮かびませんでした。
さらに、楠の会の関係する講演会に出席したり、定期的に開いている大学の先生を交えた学習会に出席することで、ひきこもりに対して、ある気付きを得ることができました。
本当に悩んでつらい思いをしているのはひきこもりの本人なんだと言うことです。
何日も家から出ないでじっとしているということは、私自身の事として考えてみればとてもつらいことです。
本当は働きに出て自由に動き回ることをしたいのだけれども、したいけどそれが出来ない。
それを出来ない自分を責めて一番つらい思いをしているのは本人なのではないかと気付いたのです。
それに気づいてからは、ひきこもる状態は改善しなければいけない状態ではないのだ。
私たちにとっては働くことが普通の状態というか、働かない状態が耐え難い状態かもしれないと思う。
しかし、子どもにとっては働きたくても働けない状態なのだ、だから家にいるしか方法がないということです。
それからは、とにかく今は、今のままでよいんだと、子どもを肯定的にみるようになりました。
じっと見守っておれば、疲れた心が元気を取り戻すはずだとの思いで接してきました。
それから十年以上が過ぎましたが、暗い表情であったのが何やら明るくなり、ぼそぼそとしか話さなかったのが、一緒にみるテレビ、食事の時だけですが、テレビの内容について自分の意見を言うようになりました。
親に対しても気遣いを見せてくれることもあります。
自分以外にも関心を向けるようになったのだと思います。
又、スーパーには自由に出かけて好きなものを買っています。
このようなわずかの変化かもしれませんが、少しずつ心の重荷も軽くなっているのかもしれません。
〇九州大学家族向けひきこもり支援プログラムに参加 
親と子の関係が更にプラスになるような会話技術取得を目指して、九州大学病院で開催されている家族向けひきこもり支援プログラムに参加しました。
このプログラムは、親子の関係の現状を分析し、どのレベルにあるかを理解したのち、より高いレベルを目指して、少しずつ会話の方法をステップアップすることを学習するものです。
このプログラムに参加して我が家の目標は九大病院のひきこもり専門外来を受診するという目標でしたがこれは達成できませんでした。
しかし、親を気遣ってか、新聞広告の求職チラシでも見て出来そうな仕事でも探そうか、といってくれるようにはなりました。
福岡楠の会会員限定で九大病院の家族向けひきこもり支援プログラムを開いていただきました。ここに誰が出席されたのか、結果はどうだったのかは私たちにはわかりません。
しかし、ある会員と集いの話をしているときに、偶然「うちもプログラムに参加し、ひきこもり専門外来に受診しました。」という話を聞きました。
プラス志向の関係を目指して親が勉強し、その会話技術でこどもと向き合えば何らかのプラスの動きがあるものだと実感した次第です。
〇ひきこもりに大切な会話
ひきこもりに長く関わってこられた斉藤環先生は、ひきこもりの原因は親でないにしても、その後の経過を大きく左右するのは家族との対話があるかどうかであり、その対話とは押し付け、議論、説得、正論でなく双方向性のある対話でなければならないと言われています。
対話をするには、ひきこもりを十分理解し、子どもに肯定的に関わる必要があると思います。そのような態度が必要と思えるようになったのは楠の会に参加したからだと考えます。
有形無形の刺激を与えて頂いた楠の会の皆さんに感謝する次第です。
ある講演会で、有名な精神科医神田橋先生の言葉が引用されていました。
“「ひきこもる」という出来事はひとつの自己治療なのです”という言葉です。 社会心理的プレッシャーやトラウマから身を守るためにひきこもるのだと言われました。
私たちはそれぞれに自己治療の手助けをしなければなりません。
ひきこもりを理解し、肯定的態度で見守ることが自己治療の手助けになるのだと思います。
〇ひきこもり親の歩みと子どもの変化
船越明子先生の「ひきこもり親の歩みと子どもの変化」という本があります。
私たちと同じような自助グループの親18名にインタビューし、自助グループに参加する親たちはどのように歩んでいったのかを調査・記述した本です。
親の歩み〔ステップ1〕では、何がなんだか分からない状態、ひきこもりになったのことに戸惑い、ただ「普通」になってほしい。普通でないから恥ずかしいという段階です。
この段階では、尻を叩くなどしてかえって状況を悪化させるなどの恐れさえあります。
〔ステップ2〕は、こどもの状態を知る、引きこもりの現実にショックを受ける。
しかし、自分だけでないと安心もする段階。ここで親の会などに参加した状態ではないでしょうか。
〔ステップ3〕では子どものつらさを理解する。子どもの気持ちを考える。子どもにプレッシャーをかけない。子どもの不安を取り除くという段階。
親の会の中で学習を重ねた結果のことだと思います。
〔ステップ4〕はありのままの子どもを受け入れる。子どもを多面的に見るという段階。
〔ステップ5〕は人生に新しい価値を見出す。ひきこもりについて自分なりの整理がつく。子どもの人生に意味を見出す。他の親の役に立ちたい。親自身が新しい人生を歩む。親子がいっしょにいること自体に喜びを感じる段階。
〇親が自分の人生を大事に楽しく生きる
ドキュメンタリー「自閉症の君との日々」の中で、自閉症の方の言葉に、「子どもは親が自分のために苦しんで努力しているのを見るのはつらいのです。親が子どものことを大切にしていることは子どもも十分知っています。親が笑っているのを見ることが子どもの喜びです。」という言葉がありました。
親が子どものことに悩み、暗い顔をしていると子供は自分のせいだとプレッシャーに感じるのだと思います。
だから、私も自分の楽しみを見つけて楽しくいきたいと思います。
徒然草に「然(さ)れば、人、死を憎まば、生(しょう)を愛すべし。存命(ぞんめい)の喜び、日々に楽しまざらむや。」という言葉があります。
私は死ぬことがとても怖いです。理由はわかりませんが怖いです。そのくせ、死が必ず来ることを忘れて生きています。
死が怖ければ、今日、命あることをもっと喜び楽しみなさいと言っています。
朝起きれば、今日も命があったことを感謝しなければいけないのだと思います。
自分についてだけではなく、妻や子供に向かっても、今日も生きてて良かったねという気持ちを持たないといけないと考えたいです。
今日も生きててよかったねと口には出さないにしても、生きていることを喜ぶ気持ちで接したいと思います。
世間の人も同じ思いで引きこもりの人に対して接してくれれば、世の中もっと変わるのではないかとも思っています。
〇支援の輪を広げる
親の歩みに対し、子どもはどのように歩むのか―。ステップ3~4で、子供が家でリラックス、社会参加のスタートラインにつくことは出来るようになります。
しかし、次の一歩が踏み出せない子どもが数多くいます。この段階では、親たちだけでは次の段階に進むことは難しく、専門職による支援も大切です。
私の場合は九大病院のプログラムがこれにあたるのかもしれません。
以上、我が家は10年以上たって、まだ十分に社会とつながっていませんが、少しずつ、つながる歩みをとっているのだと考えています。
以上で引きこもり者を持つ家族である私の歩みについてのお話を終わります。ご清聴ありがとうございました。

※文章化に当たって
講演会で話すときは、家族会で話す時と同じ態度で話しましたが、文章化するとこれが正しい歩みだと主張しているように誤解されないか心配しています。
ひきこもりは百人百様、すべてが違うと言います。これはある一人の歩みで、正しいとも正しくないともわかりません。
ある人は正しいと言われるかもしれません。ある人は正しくないと言われるかもしれません。
私は、家族の集いや講演会の話、本やテレビの内容を参考ししながら歩んできました。そんな歩みもあるんだなと、肯定的に見守って頂けたらと思います。