■楠の会だより投稿文の紹介■



ひきこもり兄弟姉妹の会「ひこうき雲」の閉会に際して
   瀧本伸一 (臨床心理士)
先月号にお知らせしましたが、3年前福岡にも兄弟姉妹の会がありました。
楠の会の居場所「七つ実館」で月に1回定期的に開かれていました。
しかし居場所がなくなりましたので、箱崎の公民館で1年間やっておられましたが、滝本さんの転勤に伴い、閉鎖になりました。その時無理にお願いして会報用に想いを書いていただきましたが、 それを掲載する時機を失していました。
ここで改めて皆様にご披露する機会ができまして安堵しました。滝本さんの貴重な体験談をどうぞお読みください。


3月の集いを最後に、ひきこもりきょうだいの集いを終えることになりました。
これまで 2年半ほど活動をしてきた中で、また自分自身の経験から感じたことを書いてみたいと思います。
〇きょうだいの思い
自分の兄弟姉妹がひきこもっていると、きょうだいはどんな思いを抱くのでしょうか。
それを想像することは簡単ではありません。
なぜなら、多くの人が兄弟姉妹がひきこもっている状況を経験していませんし、これを書いている私自身も自分以外の方の経験はほとんど知らないからです。
とはいえ何かしら役に立つものもあるかもしれませんので、私なりに考えていることを書いてみたいと思います。
私の個人的経験に多くを依っていることをご容赦下さい。
私は実家から離れて暮らしていますので、妹がどんなふうに暮らしているのか、知らないことが多くあります。
普段はあまり考えることはないのですが、知らないでいるとふとした時に不安に思うことがあります。
きょうだいが兄弟姉妹に対して不安に思うことはどんなことでしょうか。
一番は、親が亡くなった後、どうなるのか、ということでしょう。
金銭的なこともありますし、互いの関係が今後どうなるのかということもあります。
その前に、今現在どう接したらいいのか、ということもあります。
実家に帰った時に話そうとはするものの、どこかぎこちなくなったり、そもそも顔を合わせられないこともあるでしょう。
一緒に暮らしていると、もっとそれが濃密に、頻繁になっていきます。
腹が立つこと、戸惑うこともあります。兄弟姉妹に向けにくい分、親に対して、何とかしてほしいとの訴えをしたくなってしまいます。
これらの気持ちの背景にあるのはどんな思いでしょうか。
ひょっとしたらあったかもしれ ない”普通”の生活が難しくなるのではないか(もともとそんなものはないのですが)、そして兄弟姉妹のみならず、自分自身の人生が予想がつかなくなるという不安ではないでしょう か。
誤解のないように書いておきたいのですが、これは「だからひきこもっているのは悪だ」と言いたいのではありませんし、責めたい訳でもありません。
〇家族以外の人の力を借りる
指摘したいのは、ここで 挙げてみた考えや気持ちというのは、家族の中で何とかしないといけないという観念に基づいた発想ですし、家族が誰もひきこもっていない状態しか知らない人たちの発想ではないかということです。
多くの人が兄弟姉妹がひきこもっている状態を経験していないと最初に書きました。
親もそうだと思います。
だとすれば、考えるべきは、家族の中だけで解決をしようとせず、既にひきこもっている兄弟姉妹がいることを前提とした家族の在り方を、家族以外の人たちの力も借りて創っていくことではないでしょうか。
楠の会のような家族会に親が参加してくれて いることは、きょうだいにとってとても心強いことです。
金銭的なことについては、利用できる制度について、家族会での集まりや相談機関を訪れることで情報を得ることができます。
どんな生き方があるかについても、様々な場を創っている支援者の方々がいます。
そうした話も含めて、きょうだいは自分の兄弟姉妹について親と話をしたいと思っていると、私は思います。
〇きょうだいの立ち位置
兄弟姉妹にできることはないかと考えている方へ
きょうだいという立ち位置は、親とも違い、他人でもない、微妙な距離のある立ち位置です。
そんな自分がひきこもっている兄弟姉妹に対して何かをしたい、でもどこまで、何すれば良いかわからないと思ったとしたら、まずは家族として当たり前のことから始めてみるのはいかがでしょうか。電話で話をしたり、ご飯を食べたり、誕生日を祝ったり。ささやかなことでも、つながっていることで家族は励まされます。
それも難しいという方もおられるでしょうし、それをする気になれないという方もおられるかもしれません。
そうであれば何かをする前に、兄弟姉妹のことについて、誰かに話をしてみるのはどうでしょう。身近に信頼できる人がいれば一番いいですし、身近だと話しにくいということであれば、相談機関を訪れてみるのも一つです。
私は抵抗なく話せるようになるまでは、何年もかかりました。ゆっくりでいいのだと思います。
「ひきこもり」の他にも、障害のある方のきょうだいの集まりが全国にあります。
兄弟姉妹のひきこもりは、長くつきあっていくことになることが少なくありません。
きょうだいも親と同様抱え込まず、誰かの力を必要としていいですし、もっと声を挙げて良いと思います。
自分自身の幸せのために、です。力を合わせていける仲間と出会えることを願っています。
〇開き直る
最後に、 私はかつて兄弟姉妹がひきこもっていることを堂々と周囲に話せず、そんな自分自身が嫌でした。
それを変えたい気持ちもあって集いを始めたのですが、やがて、別にひきこもっていたっていいじゃないか、家族もいろいろあるけど、ウチなりにやっていったらいいじゃないかと開き直れるようになってきました。
妹はまだひきこもっていますし、苦しい思いをしていますが、家族はこの2年半で変わってきたと実感しています。
こうした経験ができたのも、これまで出会ってきたきょうだいの皆さま、「ひこうき雲」を応援して下さった楠の会を始めとした皆さまとのご縁があったからこそです。
この場を借りて「ひこうき雲」の閉会に際して 感謝申し上げます。
   (平成29年3月記)