■楠の会だより投稿文の紹介■

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NHKラジオ第2「こころをよむ」~心の病で文化をよむ~
    講師 石丸昌彦(精神科医)

たまたま聞き始めた番組ですが、こんなお話を聞くことができて幸運でした。「ひきこもり」問題に関わって以来精神科疾患についてほんの少し学んできましたが、20年の月日のうちに、精神科医療がこのように進化してきたことを実感し、感激しました。講師石丸昌彦先生のお話の項目は次のようなものです。
①精神科医と言う仕事、②躁とうつの今昔、③分裂病と呼ばれた病気、④「こころの病」のメカニズム、⑤気質・体型と天才の話、⑥文学と精神医学、⑦不安について、⑧PTSDが考えさせること、⑨ストレスと心身症、⑩依存と言う病、⑪語りと薬と場の力、⑫健康とスピリチュアリティ,⑬未来に向けて
ひきこもりは勿論病名ではないのでこの講義には扱われないのは当然ですが、発達障がいと言う区分がありません。今大流行の発達障がいがないのはどういうことなのでしょうか。代わりに目につくのが、適応障害とストレス障害です。おそらくこのPTSDや、適応障害の中に、ひきこもりや発達障がいが含まれるのかなと私は勝手な推測をしました。何もかも発達障がいと言う今の潮流に距離を置いていらっしゃるのでしょうか。
特に注目されるのは、アルコール依存症の人が考え出した、同じ病気の仲間同士で語ると言う、”単純愚直な方法”が、不治の病と言われる依存症から回復できるという、「ひと」が持っている力を改めて強調されているところです。(”は先生の言葉の引用です)
”「人はどのようにして回復するのか?」と言う問題に、ミーテイングという「場」の力が深く関わっていることは大変興味深く感じられます。脳の回路の不具合という、「もの」の次元の病理にたいしてすら、これを修正する力が「ひと」の集まりから生まれてくると言う事実は、生きる上での大きなヒントを与えてくれているでしょう。”
そして最後の章で先生が持ち出されたキイワードが”スピリチュアリティと言う言葉です。WHO(世界保健機関)が健康の定義(身体・精神・社会における良好な状態)にスピリチュアリティを加えようとしていること、それなら日本語でどう訳すか。そもそもスピチュアリティとは何か。
テキストに「不安」について取り上げられています。なぜ現代人は不安なのか、それに対してこのスピリチュアリティを提示されていると思われます。特に第2次大戦後どの国でも古くから続いていたコミュニティが消失し、人は繋がりを失って個人個人が一人で生きなくてはならなくなった、その代わりになるもの、それは崇高なもの、”物質主義的で合理的な世界観から離れた、宇宙的・超越的・非合理的な世界観”であるスピリチュアリティだと言われているようです。
”先祖や子孫と繋がっている感覚、自分が大きな宇宙の一部であると言った感覚など、時間的にも空間的にも目に見えない絆を強く意識し、生と死の区別も相対的なものになって、死を恐れなくなる「老年的超越」”、それが現代人には必要だと言われている気がします。石丸先生の広い見識と芳醇な講義内容を語ることはとてもできません。興味ある方はテキストを読むか、聞き逃しラジオをぜひお聞き下さい。(Y・F)