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楠の会だよりNo.211号(2020年1月)記事より

新しき 年の初めの 初春の 
   今日降る雪の いやしけ吉事(よごと)
           (万葉集・大伴家持)

この歌は以前にも会報に出しましたが、令和の幕開けにもう一度取り上げてみました。万葉集最後の歌としても有名なこの歌は、作者大伴家持の波乱万丈の生涯の想いを凝縮した、老人の苔むした心境が透いて見えるような歌です。


全国の家族会が1999年に発足、2003年に国の「ひきこもりガイドライン」が公布されました。
しかしこの間、なぜ日本にこのような現象が起こったのか、その原因の追究がきちんとなされたかどうか、わからないままできたように思います。
2001年に発刊された「ひきこもりの家族関係」で田中千穂子先生が言われていることが今現在も通用するのではないでしょうか。それは、

“ 未だにひきこもりをめぐっては、その理解も対応策も一つのところに収斂されてはいません。
しかしどちらかと言うと、現在多発するひきこもりの青年たちによる事件も引き金になり、子どものひきこもりは困った現象、問題行動と捉えられ、大人たちがどう立ち直らせていくか、あるいは直していくか、と言うような路線で語られてきているように思います。
彼らを問題視し、どう対処して社会に戻していくか、と考えるのであれば、私たち大人が正しくて、彼らが間違っている、だからその彼らをどう正しい道に戻してあげるか、ということになるのでしょう。
しかし私は、社会が曲がり角に来ていることに気づいていない。
大きく言えば、治療が必要なのは社会のほうだろう、と考えています。
子どもたちを何とかしてやろうというのは、大人の驕りでしかないのではないか ”

と言っています。
ひきこもりの “原因捜し” は、特に家族支援に関する限り回避されているように思います。
それでなくても疲弊している家族を追い込んでしまわないようにとの配慮であるようですが、個々人の “原因捜し” ではなく、100万人と言うひきこもり現象には共通した何かがあるはずです。
それを明らかにしないまま、ともかく目前に見えている事象への対症療法に力を入れてきたのではなかったでしょうか。
実は田中千穂子先生は “原因捜し” に仮説を出しておられました。それはやはり太平洋戦争の「敗戦」にあるとされています。
あの戦争は何だったのか、の考察が不十分なままに来ていると指摘されることがありますが、ひきこもりも無関係ではなかった、ということです。
その部分をご紹介します。

“ 敗戦後、日本は経済を発展させることによって立ち直ろうと必死になってきました。それが幸せをうるパスポートだと信じて。
そして確かに私たちの生活の質は向上し、一応の物質的な豊かさを手に入れることができました。
ところがその現実とは裏腹に、次第に心の貧しさ、人と人との対話する関係の喪失が顕在化しつつあるように思います。
戦後半世紀以上が経過した今、改めて振り返ってみると、私たちの社会は、敗戦という現実を境に、それまで自分たちを支えてきた価値観を、強引に百八十度転換させられました。
それまで正しいと信じてきたことは、間違いだったと突然宣言され、何を信じてよいのか、訳の分からない方向喪失状態の中に放り出されました。
それはいわば、私たち日本人が皆、心の中心軸を失ったと言ってよいほどの、大きな精神的な衝撃だったと言えるのではないでしょうか。
問題なのは、それが次世代を担う子どもたちに深刻な影響を与えている、と言うことです。
その意味で「心の戦後」は今、始まったばかりかも知れません。
さて、何かが優先させれば、必然的に何かが犠牲になります。優先されたものは光を浴び、落とされたものは影の部分になります。
どこに光が当てられ、何が闇の中に葬られるかには、それぞれの時代が影響します。
私は現代の子どもたちの「存在を懸けたひきこもり」の背後に、このような親の世代が生きて来なかった「影の部分の生き直し」というテーマがあるように感じています。“ 

さらに田中先生は、戦後の混乱した世の中で家族が生き延びるためには、それまで持っていた価値観をいかに早く切り替えていけるかが勝負だったのだが、人々が重視したことが、効率と明らかに成果が目に見えるものだった。
この、一目で成果が見えるものへの偏った価値観は、この時代以降深く私たちの中に浸透し、定着していったと考えられる、と言われます。
さらに、

“ この時代に自分たちが生き残るためだけでなく、次代を担う子どもたちを育てなければならなかったのが、当時の母親たちでした。私たちはおそらく、見えないところで古来から脈々と血の中に受け継いでいる、日本的な心性や智慧に支えられて生きています。
しかしそれらに頼ることは、すでにその時代の母親たちには許されません。
なぜって、敗戦によってこれまでの日本の考え方は、まとめて全部「まちがったもの、よくないもの」になってしまったからです。
何を信じてよいか、戸惑い、模索しながら、しかし生き抜くために古い物はとにかく捨てて、新しい欧米の価値観をどんどん取り入れ、過剰適応しながら、母親たちは子どもを育てていったのではないでしょうか。”

「ひきこもりの家族関係」はひきこもり現象をよく納得できる著書です。一読をお勧めします。
田中千穂子先生の言葉で今後の指針にもなる言葉をご紹介します。

“ ある程度の経済的な豊かさを手に入れた私たちは今、トータルな精神を取り戻すために、心の問題をも自分たちの視野に入れて考えるようにと、価値の基準を方向転換することを求められていると言えるのではないでしょうか。”

          (会報編集委員 吉村)

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< 1月の催し物案内 Ⅰ >

福岡「楠の会」後援会 ひきこもり経験者の声を聴く
  参加要領は下記チラシを参照ください  

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< 1月の催し物案内 Ⅱ >

福岡「楠の会」福岡県 ひきこもりの兄弟姉妹の集い
  参加要領は下記チラシを参照ください  

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<新しい年を迎えて>

ひきこもり問題に英知を結集して!
      福岡「楠の会」代表 甲木敏光

新年明けましておめでとうございます。
令和の元年になって、8050問題という言葉が、ニュースや社会問題として大きな話題になりました。
私の叔母は94才で、従兄弟は70才でひきこもり問題はともかく終了致しました。
叔母が介護施設に入ると、従兄弟は、取り敢えず本人希望で、精神科病棟に入院しました。
叔母が亡くなった時点で、「かつき苑」(介護施設)に引き取ろうと面会に行くと、精神科病棟の方が気兼ねしなくていいからと断られました。
福祉関係の会合で、ある社会福祉士は、「8050問題は予防として取り組みましょう。7040問題に取り組みましょう」とか、「最終的には0にしましょう」とか数字を並べていましたが、簡単に解決できると考えているように感じたことでした。
ひきこもりの問題がいかに深刻で難しい問題なのかという知識というか意識が、福祉専門家の人たちにあまり理解されていない気がして、本当にがっかりしました。
この問題はもっと身近に起こりうることであり、もっと多くの人々に周知され、財政的にも思い切って投資がなされ、人的な支援体制を整えて、日本社会の未来に向けて、英知を結集して解決されることを祈念したいと思います。
       福岡「楠の会」代表 甲木敏光

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今月は他にも素晴らしい投稿記事があります。ぜひ「楠の会だより」をご覧ください。
なお、当ホームページに「楠の会だより投稿」のサブページを設置しました。
こちらの方もご利用ください。☞楠の会だより投稿      

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福岡「楠の会」支部会だより

数ある支部会だよりからいくつかの支部をWEB編集者の独断で選んでいます。他の支部会の状況をご覧になりたい方は、「楠の会だより」をご利用ください。

★ 宗像の集い  12月18日 (水) 13:30~16:00 (メイトム宗像)  参加者 8名

① ドキュメント72時間「小さなウエディングストーリー」鑑賞
都会の商業ビルにある結婚式場。毎日3,40組のカップルが相談にやってくる。
写真だけの挙式、家族だけの結婚式、提携先のテーマパークで二人だけの挙式、グアムでの二人だけの挙式。今までの常識にとらわれない自分のライフストーリーにあった結婚式を求めている現代の結婚式事情が次々と紹介される。
その中で、京都大学に進学した彼、高校の後輩で彼を追って京都の大学に進学した彼女。彼は入学1年後、皆と一緒にやっていくのがしんどい、大学についていけないと休学した。
親は結果を出すことを求め続け、彼は自分の存在理由が認められなくなりひきこもり、食事も睡眠も十分に取れなくなった。
彼女はそんな彼のもとに通い続け、「生きているだけで偉いんだよ。何もしなくてもいいよ。いるだけでいいんだよ」と言い続けた。彼は生きる道を見つけることが出来て、結婚することにしたという。
涙と共にインタビューを受ける2人。

② 話し合い
・彼を支え続けた彼女は、世の中の人みんなが「生きているだけで素晴らしい」と思うようになって欲しいと話していた。大学に入ったばかりの彼女が、支援者でもない彼女がそんなことを話すなど、素晴らしい考えをどうして身につけたのか、それが知りたいと思いました。そして世の中の人がそんな教育を受けてくれたら、ひきこもりを取り巻く環境が大きく変わるのにと話し合いました。
・双極性障害に1型と2型があると説明してくれる人があり、詳しいことを調べてみたいと思います。
③ 当事者のたまり場として、月に1回、メイトムの会議室を確保します。誰でも来てください。
・12月は2名プラス親2名でした。(若者の会は、当事者の会に名称変更しました。)
・次回の当事者の会は1月22日水曜日 13:30~16:00 メイトム宗像205号室です。
④親の集い次回は、1月15日(水) メイトム宗像205号室 13;30~16:00
「8050問題 ひきこもりの実態と背景」池上正樹氏
「“ひきこもり”を深く理解するために」伊藤正俊氏
              ( A男 )    

★ 福岡東部の会  12月21日(土)13:30~16:30 (コミセン和白) 参加者13 名

今回は初めてのかたが3人、元当事者とそのご友人、そして常連6人と最近入会者2人で、いつもの空気とは少し違う和やかな中にも緊張感のあるものだったと思います。
いつものように詳細についてはお話し致しませんが、今回特に兄弟姉妹としての参加があったことは特筆すべきことでした。
会として会員の高齢化8050問題で今後「兄弟姉妹の会」に力を注ぐ方向を模索しているところでもあり、タイムリーで大変心強く感じました。
テーマとしては、「外部の風を入れる」、例えば家族の体調不良を理由に医療機関に、あるいはヘルパーさんや介護の方など第三者に訪問してもらう機会を作るなど。
「家族関係の機能不全」、例えば兄弟姉妹のギクシャクした関係、母子の関係性が強すぎるのではとか、父親が変わらなくてはと自覚しているが変われないなど。
また元当事者の方からは、「心の病は治る」と言う貴重な体験談もいただきました。
        (東部の会K)